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WINERIES

90年の歴史の先にあるもの〜サントリー信州塩尻ワイナリーの原点〜

Miyuki Isobe6 分
目次
  1. 01「赤玉」から始まった塩尻ワイナリー
  2. 02小さなタンクが物語る「区画を見る」ワインづくり
  3. 03“搾らないため”のプレス機
  4. 04歴史ある産地”塩尻”、その広がりと岩垂原
  5. 05微生物を豊かにする、土づくりのこだわり
  6. 06歴史を守ることと、時代に合わせて進化すること

ワイナリーを訪ねる面白さは、「なぜ、この味わいになったのか」その理由を、現場で、肌で感じられることにあるかもしれません。

今回訪れたのは、サントリー信州塩尻ワイナリーと、塩尻市岩垂原にある自社管理畑。
その後、山梨県へ移動しサントリー登美の丘ワイナリーへ向かいました。

前編では、サントリー信州塩尻ワイナリーを中心にお伝えしていきましょう。

1936年に開設された信州塩尻ワイナリーは、2026年でちょうど90年を迎えます。その節目に、この9月にワイナリーの名称も『サントリー信州塩尻ワイナリー』へ変更しました。

90年前の建物を大切に残しながら、その中では小型タンクや新しい除梗機、最新のプレス機が稼働しています。そして、畑では土壌中の微生物まで視野に入れた試験が続けられています。

古いものを残すことと、新しいことに挑むことが、同じ場所で共存している。そんな、現在のサントリーの日本ワインづくりをお伝えしていきます。

CHAPTER 01

「赤玉」から始まった塩尻ワイナリー

信州塩尻ワイナリーの始まりをたどると、サントリーの原点ともいえる「赤玉ポートワイン」に行き着きます。

1907年に発売され、大ヒット商品となった赤玉ポートワイン。その原料を確保する拠点として、1936年に塩尻工場が設立されました。現在も「赤玉出荷組合」からナイアガラなどのブドウが運び込まれ、赤玉スイートワインの原料酒づくりが続けられています。

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敷地内には、1937年に建てられた「第1ケラー」「第2ケラー」も残されています。

半地下につくられ、掘り出した土を建物の周囲に盛り、天然の断熱効果を利用した熟成庫。空調のない時代につくられたにもかかわらず、夏でも内部は20℃程度までしか上がらなかったといいます。

現在は老朽化や耐震上の理由から生産設備としての役目を終えていますが、その建物は、ワイナリーが歩んできた90年の時間を象徴するものであり、大切に残されています。

同様に、1953年に建てられた旧第2発酵室も、現在は熟成庫へと役割を変えています。

かつては大きな開放型タンクで赤玉用の原料酒を仕込んでいた場所に、今では温度管理された熟成スペースが設けられ、樽熟成や瓶内二次発酵のスパークリングワインが静かに時を重ねています。

建物を壊して新しくするのではなく、歴史を残しながら、その内部の役割や機能を現代のワインづくりに合わせて変えていってるのでしょう。ここでの過去と現在は、”ワイン造り”により思った以上に近い距離にあるようです。

CHAPTER 02

小さなタンクが物語る「区画を見る」ワインづくり

一方、醸造設備は大きく進化しています。

2011年から2022年にかけて発酵室を改修し、さまざまな容量の小型タンクを導入。契約農家や自社畑のブドウを、畑や区画ごとに分けて醸造できるようにしています。

赤ワインづくりで重視しているのは、まず徹底した選果だそう。

房の状態で選び、除梗したあとには粒の状態でもう一度選ぶという二段階の選果。さらに、選び抜いたブドウをタンクへ送る際にもポンプを使わず、コンベアで持ち上げ、できるだけブドウに物理的な負荷をかけずに投入します。

果皮や果肉を不用意に傷つければ、望まない苦味や雑味の抽出につながる可能性があるからです。

案内くださった、サントリー株式会社 塩尻ワイナリー所長の齊藤卓氏は、こうした工程を2021年頃から積み重ねた結果、ワインの中盤から後半へのつながりや、余韻の美しさ、品質の均一性が高まってきたと語ります。

歴史を受け継ぐ一方で、より良いワインを造るために必要な設備には投資をおこなう。
一貫しているのは”より良いワインを造る”という目的であり、そのために造り方や設備は時代とともに変えていく、ということなのでしょう。

CHAPTER 03

“搾らないため”のプレス機

今回、特に興味深かった設備のひとつが、2022年に導入された白ワイン用の水平式プレス機です。

フランスのシャンパーニュでも使われているタイプで、内部に設けられた板が水平にゆっくりと動き、低い圧力から少しずつブドウを圧搾していきます。内部の斜めの板を利用し、圧力を緩めるとブドウが重力によって自然に崩れる構造になっていて、”搾る”のではなく、ブドウを優しく“ほぐす”イメージだそう。

そのため、搾汁量は従来型より少なくなりますが、「頑張って搾ればもっと果汁は取れるけれど、そこまではせず、良い果汁だけを回収する」という考え方で使われています。ちなみに、2022年以降の高山村のシャルドネでは、このプレスによって、より繊細な果実味が表現できるようになったといいます。

CHAPTER 04

歴史ある産地”塩尻”、その広がりと岩垂原

塩尻は平坦な景色が広がる一方で、標高は市街地でも700mを超えます。周囲を山々に囲まれ、雨や雪が比較的少なく、標高や地形の異なる複数のエリアでワイン産地が広がっています。

古くからブドウ栽培が盛んで、かつてはコンコードやナイアガラなどの北米系品種が多く栽培されてきました。1930年代には、その豊富なブドウを求めて大手ワインメーカーが進出し、1936年にサントリーの塩尻ワイナリーが開設されたのもこうした背景があるそうです。

そして現在、塩尻のワイン産地はさらに広がりを見せています。ブドウ畑は周辺やより標高の高い地域へ。標高700m台から900mほどまで、異なる地形や土壌を持つエリアに栽培地が広がり、それぞれの個性を探る“サブリージョン化”が進んでいるといいます。古くからの産地でありながらも、塩尻は今なお新しいワイン産地へと変化しています。

今回訪れた岩垂原も、そうした新たな産地のひとつ。北アルプスから川によって運ばれた礫が堆積した水はけの良い土地で、かつてレタスやリンゴの産地として知られていましたが、この20年ほどでワイン用ブドウの畑が増えています。

サントリーが2016年から管理を始めた自社畑「黒紫苑」では、表土には10〜20cmほど黒ボク土があり、その下にはすぐ礫質の層が現れます。水はけがよく、一日を通して風も通りやすいため、雨のあとも房周りを健全に保ちやすい環境だといいます。

栽培されているのはメルロー。黒紫苑を含む3つの畑で約1ha弱。植栽から10年ほどが経ち、今後「岩垂原メルロー」の中核を担う存在として期待されています。

CHAPTER 05

微生物を豊かにする、土づくりのこだわり

さらに面白かったのが、黒紫苑で続けられている土づくりの試験です。
とにかく草が生えまくっている区画があります。ここで麦わらや牛糞堆肥などを投入し、地表にも植物をあえて残しているそうです。

目指しているのは、単純に栄養を与えることではなく、土壌中の微生物相を豊かにすることです。

地表の植物が増えれば根が増え、そこに関わる微生物も増える。その微生物が土壌中の物質をブドウ樹が利用しやすい形へと変え、樹の健全性やブドウの質につながるのではないかという考えに基づき試験栽培が行われています。

試験区とそれ以外の区のブドウを同じ条件で醸造して比較したところ、土壌改良を行った区画のワインについて「より複雑で、要素が多い」と評価する人が多かったといいます。今後はその違いをより科学的に検証し、山梨県の畑とも連携しながら研究を進めていく考えとのことです。

CHAPTER 06

歴史を守ることと、時代に合わせて進化すること

信州塩尻ワイナリーは、90年前に赤玉ポートワインの原料酒をつくるために誕生した塩尻の拠点でした。その敷地には今も1930年代、1950年代の建物が残っています。

けれど、その施設内では、区画ごとに醸造する小型タンクが並び、ブドウを傷つけない除梗や搬送が行われ、より柔らかな果汁を得るための最新プレス機が導入されています。さらに畑では土壌微生物まで視野に入れた栽培試験が行われています。

サントリー信州塩尻ワイナリーは、「受け継ぐ」と「進化する」が自然につながっているワイナリーでした。そこに、いつの時代にも多くの人に愛されるワインが生み出される理由があるのかもしれません。

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